牛←←←檻
波川史織は胸を締め付けるような夢をみました。
ただ傍にいるだけで、満ち足りていた頃の夢を。
#あの頃の夢をみた
https://shindanmaker.com/480975
夢や、と思った。
だって目の前にあの子がいるから。しおり、と呼ぶ声も、楽しげな顔も、あの日のままの友人。
「なにボーっとしてんねん。遊ぼうや」
ほら、とうちの手を取り引きずるように歩き出す。あまりにも当たり前みたいな顔でそうやる彼女にいつだってなにも言えなくかったけれど、柔くてあたたかい掌が好きだった。
だから、それでよかったのだ。
「うわ史織つめたいな」
何度もそう言って渋い顔をするいつだって体温の高かった彼女は、もう、いない。自分から握ったくせに、とうちがため息をつくことはもうないはずなのに。
なのに、目の前でうちの手を握るのは彼女で戸惑ってしまう。
(だって、あの日。)
あの地獄みたいな日を思い出そうとしたところで彼女の明るい声によってその思考の波は切れた。
「なあ、たかねが飯食おって言うんやけど史織も来るやろ?」
うん、と条件反射で頷けば嬉しそうな顔。
いつもんとこでええ?ええな!と一人で話を進めるの、やめてほしいってさいごまで言えなかったな。今気づいた。
うちの話も聞いてやって言えばよかった。
「…しおりさあ」
覗き込まれて、ため息ひとつ。
「なんでそんな泣きそうなん?」
(……なんでって、そんなん、)
口を開こうとしたところでぐるんと視界が回る。
(タイムオーバー、やろか)
視界には見慣れた天井、布団、インテリア。手元のスマートフォンで時間を確認するとまだ深夜で、カーテンの隙間から見える空は暗い。
「…やっぱ夢やん」
掠れた声で呟けばなんだか無性に泣きたくなる。
(あほみたいやなあ)
夢の中であの子が握っていた掌は冷たくてなんだか笑えた。
0コメント